売掛金を売却して現金化する方法がファクタリングです。資金調達に活用したものの、どのように会計処理にすればよいのでしょう。
ファクタリングにおける仕訳方法について、これから活用しようという方や、すでに会計処理において仕訳を行う段階の方に向けて徹底解説していきます。
ファクタリングの仕訳の前に取引内容を理解
ファクタリングを活用した際の仕訳方法を知る前に、まずファクタリングとはどのような資金調達の方法なのか把握しておきましょう。
日本ではファクタリングが資金調達に活用されるようになってまだ浅いイメージですが、アメリカでは100年以上前からその方法として用いられています。
アメリカではすでに当たり前のように活用されているファクタリング。しかし日本ではまだ十分に周知されていないのは、従来まで商取引に手形が用いられていたからです。
ファクタリングは、保有する売掛金を売却して現金化し、資金調達する方法です。手形も手形割引という方法で、銀行や手形割引業者に手形を売却し現金化させることができます。
ただ日本の商取引では掛けによる売買が一般的であるため、中小企業はたくさんの売掛金を保有しています。それに対し手形による取引はだんだんと少なくなってきました。
手形を用いた資金調達が少なくなった今、売掛金を資金調達に活用することで多くの中小企業が資金不足でショートしそうな窮地をクリアできます。
このときに用いられるのがファクタリングであり、売掛金を用いた資金調達の1つです。売掛金など売掛債権を資金調達に活用することは、経済産業省も推奨している方法ですので安心して活用できることでしょう。
売掛金は長期的に保有することは好ましくない
商品やサービスを販売・提供したとき、会計処理上、まずは売上を計上する仕訳を行います。
借方 | 貸方 |
売掛金 | 売上 |
という仕訳になりますが、これは先に計上された売上に対し、代金は未回収という状態をあらわします。
ファクタリングはこの売掛金が入金される予定よりも先に現金化するため、借金を増やすことなく資金調達できるので、資金繰りも改善されやすいことが特徴です。
そもそも売掛金を長期に渡り保有することは好ましいことではありません。
掛けによる取引が可能になれば、商品を購入する側は手元にお金がなくても買うことができます。商品を販売する側も、販売前の仕入れ段階で同じく掛けにより商品を仕入れていますので、掛売りや掛買いの恩恵を受けているといえるでしょう。
しかし、材料を仕入れ商品を販売し、売上として計上された売掛金が回収できるのは1か月から3か月後です。建設業などの場合、建築物が完成してからの回収となるため半年や1年かかることもあるでしょう。
売掛金を回収するまで、それまでに発生する仕入れ代金・人件費・外注費・税金など様々な支払いに充てる資金が不足してしまいがちです。
そのため、仕訳により売上として計上された代金である売掛金は、できるだけ早く回収することが資金繰りを円滑にすることにつながると理解しておきましょう。
仕訳で売掛金に計上したままになることも?
計上された売掛金は、取引先から入金があったときに振替仕訳により打ち消す作業を行います。そのため、回収分の売掛金は消えてなくなるので、いつまでも売掛金が残ったままにはならないはずです。
しかし、売掛金が取引先から支払い期日に入金されるとは限りません。
たとえば取引先の財務状況が悪化してしまい、期日に手元に資金がなければ支払うことができなくなってしまいます。
そうなると売掛金が回収できるまでさらに時間がかかる可能性もありますし、最悪の場合取引先が倒産してしまい回収できなくなる可能性もあります。
このようなトラブルを発生させないためにも、ただ商品が売れたからひとまず売掛金と売上で仕訳処理しておけばよいと考えず、適切に管理を行うことが大切です。
売上ばかり上がっても意味がない
商品が売れれば売上として計上されます。先に述べたとおり「売掛金/売上」という仕訳処理がされますので、売掛金が増えます。
しかしこの売掛金が回収できないままの状態が続くと、次々に売上は上がるのに手元の現金は増えない状態となってしまいます。
その結果、売上が増えたことで利益は出ているのに、手元の資金が枯渇することで黒字倒産を招く恐れも出てきます。
このような黒字倒産を防ぎ、資金繰りを改善するためにも期日までが長く設定されている売掛金は前倒しで現金化したほうが安心です。ファクタリングはこの売掛金前倒しが可能となる資金調達であり、銀行融資などの審査に通らなかった中小企業などにも多く活用されています。
ファクタリング後に取引先が倒産したら?
もしファクタリング利用後に取引先が倒産してしまったら、ファクタリング会社は取引先から支払われる予定の売掛金を回収できなくなります。そうなると、現金化させ先に手にしたお金をファクタリング会社に戻さなければならないのだろうか…と考えてしまうことでしょう。
しかしファクタリングは売掛金の売買により資金調達する方法のため、売掛金の請求権はファクタリング会社に移ります。そのため、ファクタリング利用後に取引先が倒産してしまっても、利用者は現金化したお金をファクタリング会社に戻す必要はありません。
発生する可能性がゼロとはいえない、売掛金の未回収リスクなどはファクタリング会社に移転する形で取引が行われることがメリットであり、手形割引との大きな違いといえるでしょう。
いよいよ本題!利用したときの仕訳方法とは?
ファクタリングはあくまでも売掛金という資産を売却することによる資金調達の方法であすので、ファクタリングを利用したときに負債は増えません。
銀行融資などが主流となっているため、仕訳処理を行う上でも負債を増やさずお金は増えることに戸惑うこともあるでしょう。
また会社などで会計ソフトやシステムなどを使用し、手書きで仕訳処理を行わず入力する形をとっている場合でも、ファクタリングに関する勘定科目がないのでどのように仕訳を行えばよいのかわからなくなってしまうものです。
そこで、売掛金発生からファクタリング利用までの一連の仕訳方法についてその内容を把握しておきましょう。
通常の掛け取引による売掛金発生の仕訳処理
先にも述べましたが、商品やサービスを掛けにより販売・提供したときの仕訳は、
借方 | 貸方 |
売掛金 | 売上 |
となります。
取引先から代金が入金されたときの仕訳
売掛金の支払い期日により取引先から代金が入金されたときには、
借方 | 貸方 |
現金(または預金) | 売掛金 |
という仕訳で、発生していた売掛金を振り替えます。
ファクタリングを利用したときの仕訳
代金が取引先より支払われるよりも前にファクタリングを利用して、売掛金を売却する契約を結んだときには、
借方 | 貸方 |
未収金 | 売掛金 |
という仕訳を立てます。
ファクタリング契約を結ぶことにより、保有していた売掛金はファクタリング会社にその権利が移りますが、ファクタリング会社から買取代金を受け取っていなければ未収金が発生します。
売掛金も未収金も流動資産であるため、貸借対照表の流動資産に含まれる勘定科目同士で移動するイメージです。
未収金とは
売掛金は通常の営業取引で発生した未回収の代金ですが、未収金は通常の営業取引以外で発生した未入金分を処理するときの勘定科目です。
ファクタリング会社から売掛金の売却代金を受け取るまでは、未収金を使って仕訳処理を行います。
ファクタリング会社から売却代金を受け取ったときの仕訳
借方 | 貸方 |
現金(または預金) 売掛債権売却損 |
普通預金 |
という仕訳処理を行います。ここで売掛債権売却損という勘定科目が登場しますが、これはファクタリング会社に対して支払う手数料を計上するときに用いります。
このとき用いる勘定科目は、売掛債権譲渡損・売掛債権売却損・売上債権譲渡損など、使用する会計ソフトなどにより異なります。
もしこれらの勘定科目がない場合には、同じ営業外費用である雑損失などを使っても問題ありません。
なぜ、このような仕訳になるのか?
金融資産を譲渡するときは、本来であれば時価で資産計上することが必要です。しかし合理的に時価の計算が難しい場合には、時価をゼロとして譲渡損益を計算すればよいこととなり、損失が発生してしまう場合に当該損失を引き当てることが必要ということになります。
金融資産である有価証券などは売買されるものですが、同じ金融資産でも売掛金は売買に用いられることが少ないといえます。そのため時価を算出できず、計算しなくてもよいということになります。
そのため、売掛金をファクタリングにより売却したとき、ファクタリング会社に支払う手数料分損失が発生します。この手数料分は営業外費用が発生したということで、譲渡損で仕訳し計上すれば問題ないということです。
仕訳に割引料を使ってもよいのか
割引料とはそもそも手形割引の割引分を仕訳処理するときに用いる勘定科目です。
手形割引は手形を早期に現金化する方法であり、ファクタリングは売掛金を早期に現金化する方法です。
どちらも売掛債権を現金化する方法ですが、手形割引の場合は売却した手形が不渡りになった場合、手形を買い戻さなければなりません。
対してファクタリングは、利用後に取引先が倒産しても売掛金を買い戻す必要はないことが特徴です。
この違いはありますが、発生する手数料を売掛債権売却損ではなく割引料で仕訳処理しても問題ありません。
売掛債権売却損で仕訳処理をする場合は、
借方 | 貸方 |
現金(または預金) 売掛債権売却損 |
未収金
|
売掛債権売却損ではなく割引料を使った場合は、
借方 | 貸方 |
現金(または預金) 割引料 |
未収金 |
売掛債権売却損も割引料も、どちらも営業外費用の区分です。
雑損失・債券割引料・支払い手数料などを用いて仕訳処理を行ってもよいでしょう。
ファクタリングと消費税とその仕訳
ファクタリングを利用した際、消費税はどのような扱いになるのか、またその仕訳処理はどうなるのでしょう。
たとえば通常の掛け取引で100万円の商品を販売したことで、100万円の売掛金が発生しました。その2か月後、100万円が取引先から入金されたとします。
この場合、販売した商品の代金100万円に対して消費税が課税されます。
取引先に渡す請求書にも、100万円の商品に対する消費税10%分10万円と、その合計金額110万円が記載されていることでしょう。
ただ、ファクタリングを利用することにより発生する手数料は消費税の課税対象にはなりません。
消費税とは
国内で事業者が事業として対価を得て行う取引が課税対象となる税金なので、ファクタリングも消費税が課税されるのでは?と考えてしまいます。
しかし、消費税には非課税となる例外取引があり、その中にファクタリングによる取引も含まれるため消費税は課税されないのです。
消費税が非課税となる主な取引には、
- ・土地の譲渡及び貸付け
- ・有価証券等の譲渡
- ・支払手段の譲渡
- ・預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等
- ・日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡
- ・商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡
- ・国等が行う一定の事務に係る役務の提供
- ・外国為替業務に係る役務の提供
- ・社会保険医療の給付等
- ・介護保険サービスの提供
- ・社会福祉事業等によるサービスの提供
- ・助産
- ・火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供
- ・一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け
- ・学校教育
- ・教科用図書の譲渡
- ・住宅の貸付け
などがあげられます。
詳しくは、国税庁の公式サイトにその内容が記載されていますので確認しておくと安心です。
上記の項目の中に有価証券等の譲渡が含まれていますが、これは株式・出資・預託形態によるゴルフ会員権など以外の、国債・株券・合名会社などの社員の持分・抵当証券・金銭債権などの譲渡のことを指しています。
ファクタリングは金銭債権などの譲渡に含まれるため、消費税は課税されないということです。
消費税法施行令と照らし合わせても、売掛金は有価証券として扱われ譲渡しても非課税取引となることが明記されています。
ファクタリング会社側からみた場合、ファクタリングによる売上も受け取る手数料も非課税となりますので、消費税を上乗せして請求することはできないということです。
ファクタリングで資金調達するとき、もし消費税という項目があった場合には、何に対する消費税なのか必ず確認しましょう。悪徳な業者の場合、利用者にバレないだろうと消費税を上乗せしてくることもあるようです。
ファクタリングの課税売上割合計算上の扱いについて
非課税売上は、原則として課税売上割合の計算に総売上高として含むことになります。
ただ、国税庁の公式サイトを確認してみると、総売上高に加える金銭債権には資産の譲渡の対価として取得したものを除くことが記載されているため、売掛金を売却しても課税売上割合の計算には含まないということです。
そのためファクタリングを利用しても、消費税申告書を作成するときに行うことは特にないということになります。
確認できるオフバランス化とは?
オフバランス化とは、賃借対照表に計上される資産を消すことであり、それにより健全な会計である見た目にできます。
仮に銀行融資で資金調達した場合は、賃借対照表上、負債に記載されることになります。
しかしファクタリングは売掛金を売却して現金化するので、銀行融資は負債を増やして現金を増やすのに対し、ファクタリングは資産を減らして現金を増やす点が大きな違いです。
総資産額が減少するため、総資産利益率や自己資金比率を向上させることができます。この総資産利益率や自己資金比率は、銀行融資における審査で重視される指標であり、企業の安定性を示すため高いほどよいとされます。
総資産利益率は、
総資産利益率=当期純利益 ÷ 総資産
という計算式で算出できます。
自己資金比率は、
自己資金比率=自己資本÷総資産
により算出可能です。
ファクタリングを活用して資金調達することにより、手元の資金を増やせるだけでなく財務指標を改善させることが可能となり、銀行融資などを検討している場合にも有利になりやすいといえるでしょう。
ただし利益が減少する点には注意
ファクタリングを利用した場合、ファクタリング会社に対して支払う手数料が発生しますが、この分利益が減少します。
そのため、利益と経営上の指標を改善させることのどちらを重視するのかにより、ファクタリングを利用するか判断することとなるでしょう。
ただオフバランス化を目的としてファクタリングを利用するのなら気になる部分ですが、実際には手元の資金が不足していて急いで資金調達することが必要であるときに利用することがほとんどなので、あまり重視されない部分ともいえます。
資金調達で用いられる場面とは
ファクタリングは審査のハードルも低く、財務状況が悪化していても活用できる資金調達の方法です。
日々の取引を仕訳し、帳簿につけ、最終的に赤字となった…という場合でも利用できます。銀行融資であれば、赤字となっていればまず借り入れは難しいでしょう。
大きな資金が必要という設備投資や事業拡大の場面では、銀行融資を活用することがほとんどです。しかし審査が厳しく、中小企業には簡単にお金を貸してくれるとは言い切れません。
しかしファクタリングであれば、審査で重視されるのは売掛金の信用力であり、利用者が赤字決算で財務状況が悪くても利用できる可能性は大きいといえます。大切なのは信用力の高い売掛金を保有しているかであり、早ければ即日現金化も可能となるほど迅速性にも優れています。
手元の資金が不足し、支払いができるこのままではショートしてしまう!というときに活用すべき方法といえるでしょう。
まとめ
ファクタリングを利用したときの仕訳の方法を解説しました。
売掛金を売却したときには、一旦未収金で計上することとなります。また、ファクタリング会社に支払う手数料分は営業外費用で仕訳処理すれば問題ありません。
そしてファクタリング取引は消費税の課税対象ではありませんので、もしファクタリング会社と契約するときに消費税分が上乗せされている場合、何に対する課税なのかしっかり確認しましょう。
中には利用者が知らないことを利用して、消費税分を余分に受け取ろうとする悪徳業者も存在しますので気を付けてください。
ファクタリングは企業の資金繰り改善にも役立つことが特徴ですが、それ以前に手元のお金を増やすまでがとても早いこと、審査が柔軟で中小企業などが利用しやすいことが最大のメリットといえます。
ファクタリングで資金調達後、どのように仕訳を立てて会計処理を行えばよいかわからなくなるのは面倒だと感じていないでしょうか。
しかし決して面倒な仕訳を立てる必要はなく、特に手間がかかることは何ひとつありません。
中小企業がとても利用しやすい資金調達の方法ですので、うまく活用して手元のお金を増やし資金繰りも円滑にしていきましょう。